はり・灸・小児はり

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はり・灸・小児はりについて

はり灸治療の特徴

1.経験療法である

石器時代、人々は細くて鋭い石器で皮膚を切り、これによって膿を排出させたりして、疾病の治療ができることを経験した。以降、磨製石器、金属器と道具の発達に伴い金属製のはりが治療に応用されるようになった。また原始人が外傷を受けたり、痛みを覚えた場合、本能的にその部に手を当て、圧したり揉んだり、舐めたり、さらには泥を塗ったり、木の葉を貼ったりしたと思われる。やがて文明が進歩し、火を利用するようになると、暖めることを通じて局部の温熱が疼痛を軽減させることを経験し、局所的温熱刺激である灸法を開発した。それらは、より効果的に場合に応じた治療に選択されるようになり、時間の経過とともにそれらの経験が集積されていったと考えられる。

2.古代思想の影響を受けている

古代の文明が一つの頂点に達した時期(中国では戦国時代から前漢まで)に、医学もその最も新しい体系化された思想の影響を多分に受けた。それは陰陽論、五行説、気の思想などであり、これらにより対立、相対比較、相互関係等の考え方が具体的に認識されはじめた。さらに当時、完成の途にあった蔵象学説、経絡学説と相まって自然と人間を一貫する法則が求められ、はり灸の治療法は複雑化されていった。

3.現代自然科学観に対応

治療学の特徴は理由付けはどうであれ、効果があるという一点にしぼられる。二千年以上、東アジア一帯ではりが伝えられていたのはそのためであるが、現代ではより有効にはりを応用する目的をもって、自然科学的な観点からデータが集積されている。また、近年、はり灸治療の臨床試験が欧米などで実施・検討されている。今後、これらに基づいたはり灸治療のガイドラインなど臨床に関係した報告が行われていくだろう。また、灸治療は外国をみた場合、はりと比較すると普及率は低い。ただ日本を含め東アジアの一部地域では、一般の人々の中により深く浸透していると考えられる。取穴に切縄法を用いたり、特効穴があったり養生の灸が伝えられているなどがその証となる。

患者の感受性

はり灸臨床において、効果的な反応を引き起こすためには、患者の感受性に応じて、適切な刺激量を与えることが重要となる。

  • 一般的な個体の感受性
    はり灸の刺激量が同一であっても、個体の感受性により反応の差異が生じる。
  • 個々の患者のもつ感受性
    個々の患者がもっている基礎疾患、あるいは精神状態により感受性は異なることがある。
  • ステンレスはり
    利点:刺入しやすく折れにくい。腐蝕し難い。安価である。高圧滅菌や通電に耐える。
    欠点:他に比べ、柔軟性・弾力性に劣る。

高血圧や低血圧などの疾患は自律神経系に影響を与えるため、これらの基礎疾患を有すると、はり灸刺激への反応性が影響を受けることがある。そのため、刺激量の調整が難しく、刺激量が過剰にならないよう注意を要する。また、はり灸刺激による各種の反射は、中枢神経系の影響を受けやすい。はり灸の効果的な反応を出現させるために、患者の精神的・情緒的安定をはかることが望ましい。

はり灸療法の適応症

はり灸は機械的刺激あるいは温熱刺激を与え、効果的な生体反応を引き起こし、保健、疾病の予防、治療に用いられている。はり灸刺激による生体反応は施術した部位だけでなく、中枢神経系の様々な部位を介して遠隔部にも反応が生じる。その結果、鎮痛、自律神経系、内分泌系の調節による全身的な影響、血流の調節や免疫機能の変化などが生じ、症状や病態が改善する。これらのことから、機能的疾患は最も効果的な適応症となるが、器質的疾患についても、前記の改善がみられるものは適応症となる。

世界保健機構(WHO)は1979年に、臨床試験に基づいたはりの適応となる43疾患を挙げている。また、米国国立衛生研究所(NIH)の合意声明書(1998年2月最終版)では、はりが有効な疾病として、成人の術後の、あるいは薬物療法時の吐き気や嘔吐、妊娠時の悪阻、歯科の術後痛を挙げている。また、補助的ないしは代替的治療法としてはりを利用すれば役立つ可能性があるものとして、薬物中毒、脳卒中のリハビリテーション、頭痛、月経痛、テニス肘、線維性筋痛、筋筋膜性疼痛、変形性関節炎、腰痛、手根管症候群、喘息を挙げている。

はりの対象となる疾患(WHOの見解,1979年)

  • Ⅰ.上気道疾患
    ①急性副鼻腔炎②急性鼻炎③感冒④急性扁桃炎
  • Ⅱ.呼吸器疾患
    ①急性気管支炎②気管支喘息(小児が最も有効,合併症がないもの)
  • Ⅲ.眼疾患
    ①急性結膜炎②中心性網膜炎③近視(小児)④白内障(合併症のないもの)
  • Ⅳ.口腔疾患
    ①歯痛②抜歯後疼痛③歯肉炎④急性・慢性咽頭炎
  • Ⅴ.胃腸疾患
    ①食道,噴門痙攣②しゃっくり③胃下垂④急性・慢性胃炎⑤胃酸過多症⑥慢性十二指腸潰瘍(除痛)⑦急性十二指腸潰瘍(合併症のないもの)⑧急性・慢性腸炎⑨急性細菌性赤痢⑩便秘⑪下痢⑫麻痺性イレウス
  • Ⅵ.神経,筋,骨疾患
    ①頭痛②片頭痛③三叉神経痛④顔面神経麻痺(初期,3~6ヶ月以内のもの)⑤脳卒中後の不全麻痺⑥末梢神経障害⑦急性灰白髄炎の後遺症(初期,6ヶ月以内のもの)⑧メニエール病⑨神経因性膀胱⑩夜尿症⑪肋間神経痛⑫頸腕症候群⑬五十肩⑭テニス肘⑮坐骨神経痛⑯腰痛⑰変形性関節症

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