スミス(Smith)骨折
発生機序
手関節を屈曲(掌屈)して、転倒し手背を衝いたさいに橈骨遠位端部に強い背屈凸の屈曲力が働き発生する骨折。例えば、
- ①大きな箱をかかえ転倒し、手背を衝いたときに生じる。
- ②手関節掌屈位でオートバイのハンドルを掌握したまま転倒、または衝突したときに生じる。
※前腕遠位端が過度回内を強制されて発生するともいわれる。
患者の肢位
患者が施術所に来院する肢位は、Colles骨折と同様である。骨折部を含め患肢手部を健側の手で支え、疼痛緩和肢位をとる。
骨折転位
-
骨折線
手関節の1〜3cm近位背側からやや斜めに掌側上方に走る。 -
骨片転位
①近位骨片:回内位
②遠位骨片:短縮転位、掌側転位、橈側転位、捻転転位。 -
変形
①遠位骨片の掌側転位が強度となり、近位骨片に騎乗かつ短縮する(鋤型変形)。
②遠位骨片の掌側転位のため、骨折部の厚さと幅が著しく増大し、近位骨片端が背側に位置するため、尺骨遠位端が背側凸(橈尺関節の脱臼)の変形を呈する。
臨床症状
Colles骨折と同様である。
-
変形
骨折部の厚さと幅が増大、フォーク状変形、銃剣状変形を呈する。 -
腫脹
前腕遠位端部、手関節、手部にかけて腫脹著明で、受傷数時間後には手指にまで腫脹が現れる。 -
機能障害
前腕回外運動、物を握る、とくに母指と小指で摘むなどの動作や、手関節運動などの障害が出現する。 -
疼痛
限局性圧痛、介逹痛著明。 -
X線像
正常との比較(正常角度)
整復
転位のないもの、あるいは整復位が保持できるものは保存療法が可能であるが、粉砕骨折で関節面の転位を伴うものや、整復位保持が困難なものは、観血手術が必要である。ただし観血治療は、骨折型や整復状態を判断し、患者の年齢、骨質などにより選択されるべきものである。
合併症
- ①尺骨遠位端部骨折(尺骨茎状突起骨折)
- ②遠位橈尺関節脱臼
- ③長母指伸筋腱断裂
- ④正中・尺骨神経損傷
-
⑤反射性交換神経性ジストロフィー(RSD)
[ズデック(Sudeck)骨萎縮を含む。]
整復法
牽引直圧整復法(術者1名、助手1名)
- ①転位軽度の骨折に応用
- ②患者は坐位または背臥位
- ③患者の肘関節を90°屈曲して、助手に骨折部の直近を把持固定させる。※患者は回外位とし、助手に橈骨部を固定させる。
-
④術者は両手の母指を掌側に、両4指を背側にあてがい、手根部とともに遠位骨片を端して、回外位に末梢牽引を行う。
《目的》捻転転位、橈尺面の側方転位、短縮転位の除去
※術者の母指は橈骨部で橈骨動脈を避けてあてがい、徐々に力強く牽引する。 -
⑤末梢牽引を緩めず、両示指で近位骨片遠位端を背側から掌側に向かって圧迫し、同時に両母指で掌側から背側に向けて遠位骨片を直圧し整復する。
※両母指で遠位骨片に圧迫を加えるときは、橈骨動脈の損傷に注意する。遠位骨片を背屈するように行う。
一人で整復する場合
患者は背臥位とし、前腕回外位で患肢の肘関節直下に術者の両足底を当て固定して整復する。
※末梢牽引のみでもかなり整復される。
整復確認
- ①変形の消失
- ②骨折部を触診し、整復を確認する。
固定
Smith骨折は再転位を起こしやすく、再転位は機能障害につながるので、回外位でしっかりと固定する必要がある。安定しているものの固定は前腕部からでよいが、不安定なものについては、上腕まで固定が必要である。仮骨形成の状態により前腕部からの固定に変更する。遠位はMP関節の手前までとし、MP関節の運動を制限しないようにする。
固定材料
クラーメル副子に厚紙副子を補助的に使用、または樹脂系キャスト材などを使用する。
固定肢位・固定期間
- ①肢位:肘関節90°屈曲、前腕回外位、手関節軽度伸展(背屈)位、軽度尺屈位
- ②固定期間:4〜5週間で骨癒合を認め、固定を除去する。
固定の注意事項
- ①固定は必要最小限度の範囲とする。
- ②クラーメル副子の背側屈曲の位置は手関節の2〜3cm近位とする。
- ③包帯の緊迫に留意する(とくに、前腕掌側には下褥を十分入れる)。
- ④固定後指の血行、神経麻痺の検査を行う。
- ⑤三角巾による提肘を行う。
後療法
Colles骨折と同様である。
- ①後療法は翌日より行い、とくに血行障害を防止し、老人では肩関節運動も行わせる。
- ②2週間ほどで良肢位の固定とし、循環の改善のため指の運動を行わせ、拘縮予防を図る。
- ③3週間をすぎると固定を外してマッサージ手技、電気療法、温熱療法を施した後、再び固定をし、4〜5週間で固定を除去、運動療法を行い、6〜12週間で治癒する。
指導管理
Colles骨折と同様であるが、再転位の可能性の高い骨折であることを説明する必要がある。
整復に関する指導管理
- ①保存療法の有効性を説明する。
- ②疼痛、腫脹などの治癒経過に合わせ、治療のプログラムを説明する。
- ③合併症について説明し、後遺症との区別をはっきりさせる。
- ④指輪をはずす。
日常生活動作、環境の指導管理
- ①とくに急性期には提肘を奨励するよう指導する。
- ②臥床は背臥位とし、患肢を腹部に置くよう指導する。
- ③肌着はできるだけ前ボタンとし、かぶるものは健側のみ袖を通すようにする。患側の袖を切ると便利である。
就労、就学、スポーツ環境に対する指導管理
- ①患肢が利き腕の場合、就労、就学の支障が長期となる。
- ②早期スポーツ練習により偽関節形成が予想されることを説明する。